2010年3月25日木曜日

海洋資源を巡る論争で、日本のプロパガンダを見た

私はたまたま日本の報道と欧米のそれを比較できる環境にいるので、時々国内と国外の報道の格差を見て、驚くことがあります。

先週大西洋のクロマグロの国際取引禁止提案が委員会で否決され、日本はほっと胸をなで下ろしたようですが、「大西洋に限らず、太平洋やインド洋でも、日本が資源管理のためのリーダーシップを発揮していく責任が生まれた」など言っている場合ではないと思います。タイセイヨウクロマグロの数は1957年から約75%も減少しており、特に激減は過去10年間に起こっているようで、獲れる魚のサイズもどんどん小さくなっています。そして、クロマグロの約8割が日本によって消費されているのは、不動の事実です。しかし、このままではあと数年でクロマグロの商業漁業が成り立たなくなる可能性が高いという危機感を、日本のメディアからはほとんど読み取れません。

”科学的根拠に基づく意見に真っ向から反対して日本が手に入れた勝利は、クロマグロが今後生き残るかどうかという疑問を生んだだけでなく、果たして良識というものが種の絶滅を防げるのかどうか、という疑問も生んだ”(英 タイムズ紙)

Japan lands a death sentence for the bluefin

"誰も日本が取引禁止案に同意するとは期待していなかったが、クロマグロの個体数回復のための禁輸案が速急に必要なのは明白なのにも関わらず、日本は「乱獲がこの種の絶滅の危機を招いている事実」に対する討論をすることにすら猛烈に抵抗した”(インド エコノミックタイムズ)

Tuna battles and culinary extinctions

”政府が科学的事実を知っておきながらそれを無視するとは、非常に無責任だ”(AP通信)

Export ban on Atlantic bluefin tuna rejected

農相は大差での否決後に「資源管理をしっかりやるという日本の姿勢が理解された。想像以上の結果が出た」と語ったようですが、私が読んだ各国の報道ではそんな解釈は見られません。各国のメディアは「日本政府はアフリカの国々と裏工作した」と報道しており、AP通信は、「日本政府は水曜日の晩にレセプションを開き、まだどちらに投票するか決まっていない使節を本マグロ寿司を含んだ晩餐でもてなした」とも報道しています。

日本政府はクロマグロ漁に問題があることは認めているが、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)が設定した漁獲枠をさらに厳しくすることで解決できると主張しており、野生動物のためにあるワシントン条約(CITES)が、マグロを規制するのはおかしいとも主張しています。しかし今回この問題がCITESに持ち込まれた経緯は、ICCATの漁獲規制が機能していないため保護が全く追いついておらず、日本政府はそれを承知でこのような主張をしている、と指摘されています。

日本のメディアはどうしてしまったのでしょうか?どこを調べても政府が言っていることをそのまま伝えているだけのものばかりで、海外のメディアが報道しているような科学的な根拠をもとにした報道がほとんど見当たらないのです。そんな中で、やっと視点が異なる記事を日本語で見つけました。

”クロマグロ「浮かれ報道は危ない」 途上国に「借り」、そのツケは”

マグロ漁のニュースの数日後、次に日本以外を駆け巡ったニュースは、中国と日本が先導して絶滅の危機に瀕しているサメ4種の輸入規制を否決させた、というものでした。ちなみにこれは、サメのヒレだけを切り取りサメ自体は生きたまま海に捨てるという方法の、フカヒレ漁の規制に反対するということです。

最近イルカのことを論じている私がこんなことを書くと、「欧米人の価値観の影響を受け過ぎ」と言われるかもしれませんが、私は思うのです。きっと日本にいる人達の多くは、こんなことは何も知らずに生活しているのだろうな、と。私のような意見を聞いても、「欧米人は日本人の食べるものに対して何でもケチをつける」というレベル止まりの場合が多いのではないか、と。なぜなら、情報がそういう思考に傾くように流れているとしか思えないのです。

冷静に考えてみて下さい。「ジャパンバッシング」「日本の食文化」という反論は、科学的裏付けによって保護されるべき野生動物や海洋資源を乱獲する理由になるのでしょうか? 失うものの大きさを考えると、私は今回の結果が”欧米諸国に対する勝利”とは言い難い気がするのです。

3 件のコメント:

  1. ブラボー!よくまとめてくれました。
    英タイムズやAPの報道などもネットで広く見ているつもりでも逃しているものがたくさんあると実感しました。

    そして興味がないトピックだったら、きっと調べようとも考えようともしないのが忙しい現代人ではないでしょうか。とすると、マグロ大好き、いつまでも食べたい!と思い続ける人々は今回のニュースも都合の良いところだけ報じる日本のメディアに十分満足しているのかもしれません。

    そもそも限りある地球の恵みを保護すべき時にしてこないで、付け焼き刃的な根回しで”勝利”を得たと発言する政府。日本は「クロマグロに死刑宣告」と報じられても仕方ないでしょう。管理強化でここまで落ち込んだマグロの数をもとに戻せるというのならぜひ有言実行、お手並み拝見したいところです。

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  2. こんにちは。
    いつも内容も読み応えのあり、写真も綺麗で素敵なブログ拝見しています。
    今回の内容で少しお伝えしたいな、と思いコメントします。

    確かにマグロ好きの日本の人々にとって「ワシントン条約においてクロマグロの取引禁止になったら大変だ」ということはメディアなどで騒がれていました。でもいくつかのメディアでは、この案の否決決定に対して「喜んではいられない」という部分をきちんと伝えていました。
    卵からの完全養殖でマグロを食べられるようになった今、既にその完全養殖のマグロを出している寿司店やレストランも日本にはあります。味もとても美味しいそうですよ、私はまだ食べたことありませんが・・・。でもまだ完全養殖は始まったばかりなので、数量も少ないし、価格の問題もあり、これからです。
    私はこの完全養殖が事業としてこれから先、成功していけば問題は解決していくのではないかと思っています。
    メディアも一方方向だけの、また発言の部分的な利用だけではなく、色々な方面からの報道をしてもらいたいと思っています。

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  3. imakokoさんー自分がもし日本にそのまま留まっていたら、今頃どうしているのだろう、と思ったりします。私は99年にフカヒレ漁のことを知ってからフカヒレスープを口にしていないのですが、よく考えてみるとそれもケヴィンがナショナルジオグラフィックか何かで読んだことを聞いてからでした。

    匿名さんー貴重なコメントをありがとうございました。私のブログを読んでいただけて光栄に思います。

    いくつかのメディアが日本人に伝えるべきことをきちんと伝えてくれている、というのはうれしい情報です。日本のジャーナリストにももう少し頑張ってもらいたいと思います。

    私も以前どこかの国のメディアが、世界で初めて成功した日本の養殖について報道しているビデオを見ました。畜養よりは良いもののまだ問題はいろいろあるとのことでしたが、今後技術が発達して餌の問題が解決すれば、日本が世界にアピールできるものになるかと思います。しかし、限られた時間の中でどれほど数を増やせるかが気になるところでもあります。

    今後メディアが話を振らずに、日本人がきちんと環境問題に向き合うように誘導してくれるのを願っています。

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