2012年9月29日土曜日

お別れ

とてもお世話になった方に、最後のお別れをしに行ってきました。
死期が迫った人に今までのお礼とお別れを言いに行くなんて、生まれて初めての経験でした。カンザスシティーまでのフライトの中で、面会中の限られた時間の中で何を伝えたいかを一生懸命考えました。

交換留学生としてカンザスに初めて行った時から26年。とても優しいホストダッドで、7月の私の誕生日には、"Dear Chika, our valued daughter. I'm not compeling cards so I'm sending you a note to let you know we are thinking of you on this special day. We love you and so very happy to get to share your love.  Love, Dad" というEメールを送ってくれました。

ここ10日間ほど安定しない日々が続いていたようですが、ホスピスに会いに行った時は意識がかなりはっきりしていて、私が誰かもちゃんとわかってくれました。脳腫瘍で痛みと闘いながらも、私の日本の家族は元気かと聞いてくれ、「ケヴィンはグッド・ガイだね」そして「お母さんになれて本当によかったね」と言い、"I'm so happy for you"と何度も何度も言ってくれましたふーっと目を閉じたので寝るのかなと思ったらまた目を開けて、「まだスバル(私のオンボロ車)に乗っているの?」という質問には、横に居た家族が驚くほど記憶力は衰えていませんでした。

9月10日に彼の容態が良くないという知らせが届いた後、当時の日記帳を引っ張り出して、少しずつそれを読み始めました。おもしろいエピソードがあるページに付箋がついた2冊の日記帳を持って行き、面会中にそれを読んで昔の思い出をみんなで語りました。

ホストマムはオンラインで闘病日記をつけており、毎日の彼の様子を良いことも悪いことも全て綴ってくれているので、状況が手に取るようにわかるようになっています。お陰で会う前にある程度の心の準備ができましたし、そもそも私が行く日程を1週間早めたのは、彼女がその中で「そろそろお葬式をプランする時期になったので、披露したいローレン(ホストダッド)との特別な思い出がある方はご連絡ください」とアナウンスしたからだったのでした。

うれしいことも悲しいこともすべてみんなと分かち合い、周りが積極的にサポートをするのがアメリカ人のスタイルだと、国民性の違いをあらためて感じました。

私達が面会中に、近くに住むホストマムの妹夫婦がやってきました。これから州外にしばらく出かけないといけないので、最後のお別れを言いに来たのです。「ローレン、私のお姉さんを愛してくれてありがとう」と言う姿を見て胸を打たれましたが、「天国に着いたら私の場所をちゃんと取っておいてね」と言うのを聞いて驚きました。患者にはっきりと余命を伝えるのが一般的な国では、本人の前でも死を隠さずに会話をするのだな、と。

「去って欲しくないけど、これ以上痛みに苦しんで欲しくない」という空気が家族の間に漂っていました。どうしても私は「さようなら」とは言えず、「また来るからね」と言ってホスピスを後にしました。ホストダッドは私の目をじっとみつめ、"I love you"と優しく言ってくれました。体重が減ってかなり見た目は変わってしまったものの、青い目の中には以前と同じいたずらっぽい光がまだ残っていました。これが私の記憶の中にずっと残ると思い、辛いながらもうれしく思いました。

車が出発した途端、「最後にもう一度お礼を言えばよかった」という思いが込み上げ、運転していた友達パムに「戻る?」と言われたのですが、「きっとダッドはわかっているよね」と自分に言い聞かせてそのまま先に進みました。

ホストダッドは自分は9月28日に死ぬ、と周りに言っていたそうですが、今だに頑張っているようです。人とコミュニケーションができたのは、私とパムが面会した26日が最後だったようで、その日の午後からは眠る時間が長くなったようです。

家に帰って来てから夜ベッドの中で目が冴えて、子育てで忙しいと言いつつ実は遊び惚けていた自分に罪悪感を感じ、「もっと電話をしておけばよかった」とか「カリーナを連れて会いに行っておけばよかった」と、後悔が波のように押し寄せて止まらなくなってしまいました。

忙しい、時間がない、というのは単なる言い訳だと落ち込む私がここにいます。後悔先に立たずとはまさにこのこと。私の人生観がまたちょっと変わりました。



*9月30日の早朝、ホストダッドは天国へ旅立ちました。

4 件のコメント:

  1. お別れに行けてよかったね。そう、Cさんの言う通り、ホストダッドはわかってくれているはずです、Cさんの気持ち。あとは送る側の人々それぞれが気持ちに折り合いを付けられるかどうか。去り行く人を引き止められないもどかしさ、もっと優しくしておけばよかった、感謝しておけばよかったと思わない人はいないのでは。自分も含めてみんないつかはいなくなる。その事を忘れずにいれば、後悔する場面も減らすことができる気がします。悲しくてつらいよね。最後まで大切な学びの場面をくれた素晴らしいホストダッドと出会えて幸せですね。苦しみが続かないように私も祈っています。長々とごめんね。

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  2. 親孝行をしましたね。気持ちが何より重要なのだし、感謝と相手への思いやりはちゃんと伝わってるはず。時間を作って自分に会いにきてくれたことを嬉しく思わないはずがない!実は同じような気持ちで100歳になった恩師(日本在住歴75年)に会いに10月にアイルランドへ行くのだけど、決心は正しかったのだ、と背中を押してもらったようです。いや、確信できました。ありがとう。残された時間が穏やかでありますように、とお祈りします。

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  3. imakokoさん&けちょ、温かいコメントをどうもありがとう。後に個別にメールします。

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  4. ずっと気になっていました。
    そうですか。30日に旅立たれたのですね。
    会えて、がんばって笑顔でお別れできてよかったね。
    ご冥福をお祈りします。

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