2010年4月8日木曜日

日本と日本のイルカの行く末 6 <ザ・コーブ>

先月、この映画製作チームの1人であるJoseph Chisholm氏に個人的に会って話をする機会に恵まれました。この映画を観た方は「ああ、あれね」とピンと来るかと思いますが、彼は何十箱になったあの大量の機材を手配した人で、実際にカメラを回した人の1人です。この映画の製作のために、2年間で6回日本に足を運んだそうです。

天気の良い午後に、ボールダー市内のカフェで落ち合いました。約2時間の対談は有意義なものでしたが時間が足りず、そこから広がった新たな疑問や質問は持ち越すことになりました。Chisholm氏から、「これはOPS(海洋保護協会=フィルム制作団体)を代表しての答えであり、公表してもらって構わない」という了承を得たので、とりあえず今回の対談をまとめました。

Q:撮影前に太地町との交渉はどのように行われたのか?

A:2日間に渡り約8時間、役場と漁業組合との交渉に臨んだが、残念ながら望んでいた結果は出なかった。我々は漁師達の生の声も普段の生活を通じて撮影したいと思ったが、それも却下された。この段階ですでにかなりの時間が経過していたため、許可は降りなかったが撮影を進めることにした。もっと踏み込んだ話し合いをしたかったが、「イルカ漁は長年続いていることだから」というところで行き詰まり、その次のレベルに話を進めるのが困難だった(つまり、海洋資源保護のレベルや水銀問題のレベル、ということ)。

実はOPSは、イルカを海へ逃がすことと引き換えに、殺して売った場合と同額を支払うという条件の提示もした。しかしそれも「お金の問題ではない」と却下された。

Q:通訳が始めの数週間しか一緒に行動しなかったと聞いたが、通訳なしでは住民との意思疎通が困難だったのではないか?

A:いろいろな手配が必要な段階と、太地町との交渉にはずっと通訳が居た。しかし、自分達で(密かに)撮影を進める段階では通訳は不要であり、(いろいろな問題もあったので)自分達と一緒に行動することによって日本人をトラブルに巻き込むこともできないと思った。

Q:違法に撮影された映画、という意見に対するコメントは?

A:「立入り禁止」になっている場所は国立公園の中にあり、津波が発生した時に太地町の住民の避難場所になっているところでもある。「立入り禁止」にしたのは漁師達(漁業組合?)なので、実際には法的な効力はないはずだ。なので違法と言うのはおかしい。その他は公道で撮影したので違法ではない。それ以外(立入り禁止区域以外か太地町以外かは不明)はすべて撮影許可をもらい、時には案内人付きで撮影を進めた。我々はできるだけ日本を知るために、北は北海道から南は宮崎まで各地を旅していろいろな場所で撮影をし、様々な美しい映像をフィルムに収めた。

Q:インタビューを映画に使われた人達が、「インタビュー時には、自分がこのような映画のためのインタビューを受けているとは知らされていなかった」と言っているようだが、実際はどうだったのか?

A:ドキュメンタリーというのは、撮影をしている時には実際に出来上がる作品がどんなものになるかがわからないことが多い。自分も今回かなりの量の撮影をしたが、テーマに沿って撮影をしていたものの、大きな図が見えて来たのは後になってからだった。確かに「環境問題の映画のため」ということでインタビューを行ったが、我々は嘘をついたわけではない。自分が各インタビュー時にカメラを回したのではっきり言うが、インタビューに応じた人々は、事前に「この映像は永久にOPSが所有し、使用する権利がある」という書類に同意するサインをしている。

Q:私は個人的に映画の始まり方に不快感を感じた。その理由は活動家のリック・オバリー氏が「漁師達は私のことを殺したいと思っている」というような、過激な発言のせいだった。私は彼のそんな発言は、地元への敬意の欠如に思えたが。

A:彼は究極の活動家なので、過激な発言をしがちだということは認める。しかし、我々は太地町で実際に起こっていることを撮影した。我々の撮影に反対していた人達の行動は映画の中の通りだが、実は彼らの更に攻撃的な映像も持っている。それを映画に使うこともできたが、あえて使わないことにした。

Q:OPSとシーシェパードを混同している日本人が少なくないようで(映画の中にシーシェパードの代表のインタビューもある)、中にはこの映画はシーシェパードによって作られたものだと思っている人もいるようだが。

A:えっ?(驚きの表情)そんな話は聞いたことがない。

Q:(彼からの質問)アカデミー賞は日本で一番視聴率が高い番組だと聞いたが、それは本当か?

私はそうは思えない、と答えましたが、実際の視聴率はどれくらいなのでしょうか?

Chisholm氏は私の想定するところでは30代後半くらい。カリブ海で長年のセーリングやスキューバダイビングの経験があり、それをきっかけに海洋資源保護の重要性を意識するようになったそうです。ボールダーの住民らしく環境問題に敏感で、家の家庭菜園で野菜を育て、できるだけゴミを作らない努力もしていると言っていました。「昔は牛肉も大好きだったんだけどね」と小さな声でこっそりと言い、「世界に向けてメッセージを送る者として矛盾があってはいけないから、食生活もかなり変えたんだ」。

OPSは小さな非営利団体で、この映画の制作費の大部分は海洋資源保護に関心を持つアメリカ人実業家によって支援されました。Chisholm氏の発言に対する受け止め方は人それぞれだと思います。彼と会った後、更に太地町側の話を聞いてみたくなりました。

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